熱勾配が誘起するスキルミオンのラチェット回転現象

鏡に映した像が互いに重ならない結晶構造を持つ磁性体(キラル磁性体)を磁場中に置くと、電子スピンがスキルミオンと呼ばれるナノスケールの渦構造を形成します。近年、このスキルミオンが高い電子デバイスとしての機能を持っていることが明らかになり、ハードディスクなど現行のデバイスを超える高密度・省電力の磁気記憶・演算デバイスへの応用が期待されています。しかし、その実現にはスキルミオンを効率的に制御する方法を確立する必要があります。本研究では、キラル磁性体に磁場を下向きに加えた際に出現するスキルミオンを、電子線ビームを利用して試料を観察するローレンツ電子顕微鏡で観察したところ、スキルミオン結晶が一方向に回転する現象を観察しました。数値シミュレーションの結果、ローレンツ電子顕微鏡の電子線ビームによりキラル磁性体に同心円状の温度勾配ができることで、スキルミオンの一方向の回転が起きることが分かりました。さらに理論解析の結果、この回転運動は、熱揺らぎによって励起されたスピンの集団振動(マグノン)の高温側から低温側への拡散的な流れ(マグノン流)が、スキルミオンが作る仮想磁束により曲げられ(トポロジカルマグノンホール効果)、その反作用によって引き起こされていることが分かりました。この発見は、スキルミオンを光や電子線の照射による熱的なマグノンの励起によって駆動・制御する新しい方法を切り拓くものであり、電流制御のようなジュール熱によるエネルギー損失がほとんどない新しいスキルミオンの制御方法となることが期待できます。
M. Mochizuki, X. Z. Yu, S. Seki, N. Kanazawa, W. Koshibae, J. Zang, M. Mostovoy, Y. Tokura, N. Nagaosa
Nature Materials 13, 241-246 (2014).
スキルミオン結晶相が示す巨大なマイクロ波ダイオード効果

カイラル絶縁磁性体Cu
2OSeO
3のスキルミオン相では、スキルミオンの渦状非共線的スピン構造がスピン軌道相互作用を通じて誘電分極を誘起することで、マルチフェロイックス特性と新しい電気磁気現象が実現し得る。そのような現象の重要な一例として、この物質が20-30%にも及ぶマイクロ波の非相反方向二色性を示すことを、微視的モデルを用いたLLG方程式の精密な数値解析により予言した。この物質に特定の方向から静磁場を印加すると、磁場に平行な磁化Mと、磁場に垂直な強誘電分極Pを同時に誘起できる。このように系が有限のトロイダルモーメントT=P×Mを持つ状況では、直線偏光のマイクロ波をTに平行に入射すると、その交流電場成分と交流磁場成分が同じ電気磁気結合モードを励起できる。これらの二つの励起プロセスは、マイクロ波の入射方向の正負に依存して、協力的あるいは相殺的に干渉し、結果としてマイクロ波の吸収強度が20-30%も異なる「マイクロ波ダイオード効果」が実現する。このような巨大な電磁波のダイオード効果は、マイクロ波周波数領域では過去に報告例がなく、マルチフェロイック特性を持つトポロジカルスピンテクスチャの光/マイクロ波機能の研究を切り拓く先駆けとなる。
M. Mochizuki, and S. Seki,
Physical Review B 87, 134403 (2013).
スキルミオンの電流駆動ダイミクスにおけるユニバーサルな振る舞い

MnSiやFe1-xCoxSiなどのB20型カイラル金属磁性体において、磁場下での強磁性交換相互作用とDzyaloshinskii-守谷相互作用の拮抗により生じるトポロジカルな渦状スピン構造(スキルミオン)は、ナノスケールの極微サイズであることと、磁壁駆動の閾値電流より5-6桁小さい極小電流で駆動できることから、高密度省電力データデバイス応用に向けたスピントロ二クス研究の新しい研究対象として注目を集めている。そこで、不純物の存在下でのスキルミオンの電流駆動ダイナミクスを、Landau-Lifshitz-Gilbert方程式の数値シミュレーションにより調べた。まず、ピン止め効果の閾値電流がらせん磁性や強磁性磁壁に比べて圧倒的に小さいという実験事実を確かめた。さらに、内的ピン止め効果と外的ピン止め効果を分けて検証することで、(i) 「スキルミオンでは、ヘリカル磁性や強磁性磁壁と異なり、内的ピン止め効果がまったく働かない」ことや、(ii) 「スキルミオンは、変形の自由度やピン止め中心を避けながら運動する自由度を持つため、外的ピン止め効果を圧倒的に受けにくい」ことを明らかにした。その結果、スキルミオンの電流密度-駆動速度の関係は、不純物の濃度/強度や非断熱項の結合定数(β)の大きさにほとんど依存しないユニーバーサルなものとなる。これらの発見は、スキルミオンなどのトポロジカルなスピンテクスチャが、スピントロ二クスの新しい研究対象として非常に有望であることを示している。

J. Iwasaki,
M. Mochizuki, and N. Nagaosa,
Nature Communications 4, 1463 (2013).
カイラル強磁性体におけるスキルミオン結晶のスピン波モードと強励起効果

反転対称性のないカイラル磁性体薄膜では、強磁性交換相互作用とDzyaloshinskii-守谷相互作用、さらに面直磁場とのZeeman相互作用の競合により、しばしばスキルミオンと呼ばれる渦上のトポロジカルなスピンテクスチャーや、それが三角格子状に整列したスキルミオン結晶が実現する。このスキルミオンは、そのサイズが10-100ナノメートル程度と、通常の磁性体中のドメインやバブルに比べて非常に小さい。さらに、微小な電場で駆動でき、室温やそれ以上の温度でも安定に存在し得ることが実験的に明らかにされている。このような特性(小さいサイズ、低い閾値外場、高い動作温度)は、高密度データデバイスの応用にも有利な性質である。このスキルミオン結晶の外場制御を目指し、マイクロ波により励起されるスピン波の性質を、LLG方程式を用いたスピンダイナミクスの数値計算により明らかにした。具体的には面内ac磁場に対してマイクロ波周波数領域に二つのマグノン(回転モード)が励起され、それぞれのモードでスピンのz軸成分やスカラーカイラリティの分布が時計方向と反時計方向に回転することと、これらのモードが強い円偏光依存性を示すことを明らかにした。それに対し、面直ac磁場に対してはブリージングモードが励起されることを明らかにした。これらのスピン波モードを高強度マイクロ波の照射により強励起することで、共鳴周波数の赤方偏移を伴うスカーミオン結晶の融解が起こることを発見した。

M. Mochizuki,
Phys. Rev. Lett. 108, 017601 (2012).
エレクトロマグノン強励起によるスピンカイラリティの光スイッチの理論

横滑りスパイラル磁性体TbMnO
3のベクトルスピンカイラリティを、高強度THzパルスレーザーの照射によるエレクトロマグノンの強励起により、高速かつ自在に制御する方法を理論的に提案した。TbMnO
3に、エレクトロマグノンの共鳴周波数(およそ2THz)を持つ強いレーザーパルスを照射すると、光の振動電場が電気磁気結合を通じてダイナミカルなポテンシャル構造の変調を引き起こし、スピンカイラリティの反転やフロップを起こし得ることを明らかにした。この現象は、磁気異方性のために質量を獲得したスパイラル磁性面が、変調するポテンシャル中で慣性運動することにより引き起こされる。このカイラリティ反転やフロップのダイナミクスは、照射するレーザーパルスの強度や時間幅、周波数、符号に対して非常に強い非線形性を示し、これらのパラメータを調節することで四つのスピンカイラリティ状態間を自在にスイッチできることを明らかにした。また、このような反転やフロップの過程では、カイラリティドメインのダイナミカルな空間構造形成(動的ストライプ)という興味深い相転移ダイナミクスが発現することを明らかにした。

M. Mochizuki and N. Nagaosa,
Phys. Rev. Lett. 105, 147202 (2010).

M. Mochizuki and N. Nagaosa,
J. Phys.: Conf. Sers. 320, 012082 (2011).
マルチフェロイックMnぺロフスカイトのエレクトロマグノン励起

マルチフェロイックス(磁性強誘電体)では、電気分極と磁気モーメントのカップリング(電気磁気結合)を通じて光の振動電場成分でスピン波を励起できる(エレクトロマグノン励起)。この現象は、強励起されたエレクトロマグノンの非線形な相互作用により、まったく新しいマグノン物理現象が発現する可能性があり、興味を持っている。典型物質である希土類Mnぺロフスカイト
RMnO
3でも、THz周波数領域に二つのエレクトロマグノン励起が観測されたが、その励起機構や偏光選択則が謎であり、世界中の研究者を巻き込んだ論争の種であった。我々は、「反転対称性がないMn-O-Mnボンド上の酸素イオンが作るS
i・S
jに比例する電気分極」と「光の振動電場」の相互作用に起因する機構に基づき、スピンの時間発展方程式を数値的に解析することで、実験で得られている「THz周波数に二つのピークを持つ吸収スペクトル」と「偏光選択則」の再現に、世界で初めて成功した。二つのスペクトルピークのうち、高エネルギーピークはゾーン端(0,π,0) のマグノンモードに由来している。それに対し、低エネルギーピークは、磁気異方性やスピン-フォノン結合に由来するbiquadratic相互作用によって巻き角が非一様になったスパイラル磁性の高調波成分によって引き起こされる磁気ブリュアン域端でのスピン波の折返しに由来していることを明らかにした。

M. Mochizuki, N. Furukawa and N. Nagaosa,
Phys. Rev. Lett. 104, 177206 (2010).
RMnO3におけるパイエルス型スピン-格子結合と磁気強誘電性
RMnO
3(
R=希土類イオン)の磁性や磁気強誘電性の発現にパイエルス型スピン-格子結合(スピンの内積S
i・S
jと格子変位のカップリング)が重要な役割を果たしていることを、精密なスピンモデルを使って明らかにした。このモデルには、スピン交換相互作用に加え「単一イオン磁気異方性項」と「Dzyaloshinskii-守谷(DM)相互作用」を考慮した。さらに、この物質群の最近接強磁性相互作用はMn-O-Mnボンド角に敏感に依存しているので、酸素イオンの変位がボンド角を小さく(大きく)し強磁性相互作用が弱く(強く)する効果を取り込んだ。レプリカ交換モンテカルロ法による解析により、A型反強磁性相とスパイラル磁性相のみならず、四倍周期(↑↑↓↓型)のE型反強磁性相をも含む
RMnO
3の完全な電気磁気相図を世界で初めて再現することに成功した。また、スピン-格子結合に起因するボンド交替がE型反強磁性相の発現に不可欠な役割を果たすと同時に、巨大な強誘電分極を生み出していることを見出した。また、スパイラル磁性強誘電相では、従来スピンの外積S
i×S
jと格子のカップリングのみが強誘電性の起源として素朴に考えられてきたが、交替的なDMベクトルの配置のもとでスパイラルの巻き角が変調を受けると、内積S
i・S
jとのカップリングも強誘電性に大きく寄与すること(S
i×S
jとS
i・S
jのハイブリッド機構)を明らかにした。これは、大きな強誘電分極を持つマルチフェロイック物質の設計に重要な指針を与える。さらに、謎だった多くの実験結果がパイエルス型スピン-格子結合を考慮したモデルですべて説明できることを示した。

M. Mochizuki, N. Furukawa and N. Nagaosa,
Phys. Rev. B 84, 144409 (2011).

M. Mochizuki, N. Furukawa and N. Nagaosa,
Phys. Rev. Lett. 105, 037205 (2010).

N. Furukawa and M. Mochizuki,
J. Phys. Soc. Jpn. 79, 033708 (2010).
スパイラル磁性強誘電体の磁場による誘電性制御の理論

スパイラル磁性強誘電体では、磁場でスピン構造を変化させることで、誘電性の制御が可能である。素朴には、スパイラル磁気構造に磁場を印加すると、磁場方向に一様磁化を出すコニカル磁気構造がゼーマンエネルギーの利得により安定化することが期待される。その際、スパイラル/コニカル磁性面の向きの変化に伴う強誘電分極のフロップや消滅が起こる。しかし、DyMnO
3やTbMnO
3、Eu
1-xY
xMnO
3などの物質では、必ずしもこのような簡単な描像では理解できないフロップや消滅が観測されている。これらの非自明な振る舞いを理解するために、精密なスピンモデルを構築し、レプリカ交換モンテカルロ法で解析した。その結果、これらの三つの物質において実験で得られている磁場中相図を完全に再現した。そして、一見不思議な磁場下での強誘電分極の振る舞い(フロップや消滅)が、交換相互作用(
J)のエネルギースケールが実効的に小さくなるフラストレーション系ゆえに、相対的に重要度を増した磁気異方性やDzyaloshinskii-守谷相互作用、
f-
d相互作用(希土類fモーメントとの相互作用)と交換相互作用の競合の結果であることを明らかにした。このような現象は
RMnO
3以外でも、LiCu
2O
2やMnWO
4、Ni
3V2O
8など数多くの物質で報告されており、交換相互作用のフラストレーションに由来するスパイラル磁性強誘電体に普遍的な現象・メカニズムと言える。

M. Mochizuki and N. Furukawa,
Phys. Rev. Lett. 105, 187601 (2010).

M. Tokunaga et al.,
Phys. Rev. Lett. 103, 187202 (2009).
マルチフェロイックドメイン壁と巨大誘電応答

DyMnO
3は、磁場誘起の電気分極フロップに伴い、誘電率が臨界的に増大する巨大誘電応答を示す。賀川らは、詳細な実験により、その起源がマルチフェロイックドメイン壁の電場駆動運動であることを明らかにした。ドメインの制御・駆動は、デバイスへの応用上も、基礎物理としても重要な問題である。ドメイン壁がどのような微視的内部構造と特徴を有しているのか、二種類のスパイラル磁性の競合を記述するスピンモデルを構築し数値シミュレーションにより調べた。その結果、通常の強誘電体や強磁性体のドメイン壁とは異なる、スパイラル磁性強誘電体に特有のドメイン壁の構造や性質が明らかになった。まず、ハイゼンベルグスピンの性質を反映してドメイン壁が分厚くなることが分かった。これは、格子変位に由来するイジング的な電気分極の反転層から形成される原子レベルで薄い従来の強誘電体のドメイン壁とは対照的な性質である。また、二種類のスパイラル磁性状態間のエネルギー障壁は、四次の磁気異方性にスケールするため非常に小さく、通常の強磁性体の「二次の異方性にスケールする大きなエネルギー障壁」とは対照的であることを見出した。これらの性質のため、DyMnO
3のマルチフェロイックドメイン壁はピン留めの影響を受けにくく、低温でも弱い外場での高速駆動が可能になる。また、従来の強誘電ドメイン壁の「核生成と成長」というプロセスとは異なる、マグノン励起を伴う新しい駆動ダイナミクスが期待される。さらに、電気分極がネール壁を形成するため、div
Pが有限になり電荷を持つことが分かった。これは、電荷を持たない通常の強誘電体の180度ドメイン壁とは対照的な性質である。

F. Kagawa, M. Mochizuki et al.,
Phys. Rev. Lett. 102, 057604 (2009).
Mnぺロフスカイトにおける格子歪みが誘起する電気分極フロップ

スパイラル磁性強誘電体の最初の発見例である希土類Mnペロブスカイト(
RMnO
3,
R=希土類イオン)は、マルチフェロイック物質が示す電気磁気現象のほとんどすべてを発現する典型物質でもある。そのMnペロブスカイトを記述する微視的スピン模型を、現実の結晶と軌道の構造を考慮して構築し、レプリカ交換モンテカルロ法などの数値計算手法により解析した。実験的には、希土類イオンの種類を変えたり、固溶系(Eu
1-xY
xMnO
3やGd
1-xTb
xMnO
3)を用いてGdFeO
3型格子歪みを強くしていくと、スパイラル磁性のスパイラル面が
ab面から
bc面に90度フロップし、それに伴い電気分極のフロップ(
P//
aから
P//
c)が起こる。この格子歪みに誘起されたスパイラル磁性面のフロップが、単一イオン磁気異方性とDzyaloshinskii-守谷相互作用の競合により起こることを解明した。この競合は、GdFeO
3型格子歪みによって増大する次近接Mn-Mn間の反強磁性交換相互作用
J2、あるいは
J2によって決まるスピンスパイラルの巻き角によって支配されることが分かった。また、得られた温度-
J2相図は、実験で明らかにされたMnペロブスカイトの電気磁気相図を、歪みの強い領域のE型反強磁性相を除いて再現した。ここで解明された「二種類のスパイラル磁性秩序の競合(ここでは
ab/bc競合と呼ぶ)」は、(1) 磁場印加による電気分極のフロップ、発現、消滅、(2) 電場によるマルチフェロイックドメイン壁の駆動と巨大誘電応答、(3) 光の電場成分が誘起するエレクトロマグノン励起などの「スパイラル磁性強誘電体が示す電気磁気現象」の背後に普遍的な物理として存在することが分かった。この研究で得られた
ab/bc競合の知見をもとに、これらの電気磁気現象の物理を解明・理解することは次の重要な課題である。

M. Mochizuki and N. Furukawa,
Phys. Rev. B 80, 134416 (2009).

M. Mochizuki and N. Furukawa,
J. Phys. Soc. Jpn. 78, 053704 (2009).
モット絶縁体ペロブスカイト型Ti酸化物における磁気-軌道秩序と相転移
最近のものではありませんが、思い入れの深い研究成果を一つだけご紹介。

ペロブスカイト型Ti酸化物 (
RTiO
3:
R=希土類イオン)は、各Ti
3+イオン上で3d電子を1個持つモット絶縁体であり、「t
2g電子系の軌道物理」や「バンド幅制御およびフィリング制御型の金属絶縁体転移」を理解する上での典型物質として長年に渡り研究されてきた重要な物質群である。しかし、それらの理解に不可欠である基底状態の磁気-軌道状態や反強磁性-強磁性転移の機構がほとんど未解明であった。これらの問題を解明するために、Ti3d軌道と酸素2p軌道の自由度と現実の格子歪みの効果をまじめに考慮した精密な多軌道
d-pモデルから出発し、絶縁体極限でKugel-Khomskii型の有効モデルを導出し解析した。その結果、実験で得られている不思議な反強磁性-強磁性転移の臨界挙動を再現し、得られた磁気-軌道構造によりすべての実験結果を矛盾なく説明することに成功した。
この研究により、RTiO3では、格子歪みがTi3d軌道の秩序状態を決定し、秩序化した軌道の異方性を通じて三次元から二次元へ磁気相互作用の次元クロスオーバーを引き起こすことで磁気相転移の臨界的性質を支配することを明らかにした。また、「GdFeO3型歪み誘起のt2g-eg軌道混成に由来する強磁性相互作用」や「希土類イオン結晶場による軌道縮退の解消」など、今まで見過ごされてきた「ペロブスカイト化合物の電子構造を支配するメカニズム」を発見した。特に、従来ペロブスカイト化合物の物性にはあまり本質的でないと考えられ無視されてきた希土類イオンが、GdFeO3型結晶構造中で結晶場を形成し、Jahn-Teller機構と競合・協調しながら系の電子状態を決定する重要なメカニズムとして働くことを初めて見出した。このGdFeO3型格子歪みは、ペロブスカイト化合物において普遍的に見られる格子歪みなので、他のペロブスカイト化合物でも希土類イオン結晶場が重要な役割を果たしている可能性があり、これらの物質群の今まで謎とされてきた物性現象の解明・理解の重要な手がかりを与える。

また、
RTiO
3は軌道縮退系と考えられていたため、実験で観測されている金属絶縁体転移の臨界挙動が、動的平均場近似や経路積分繰込み群法などによる「(軌道自由度を考えていない)単バンドHubbardモデル」の数値シミュレーションの結果と非常に良く一致する理由が大きな謎であった。しかし、我々の研究により、GdFeO
3型歪みを伴うぺロフスカイト型の結晶構造中で「希土類イオンが作る結晶場」が軌道縮退を本質的に解消しており、系が有効的に単軌道モデルで良く記述できることが分かった。これにより、単バンドモデルに基づく理論と実験結果の対応に強固なバックグラウンドが与えられた。

レビューとして、M. Mochizuki and M. Imada,
New J. Phys. 6, 154 (2004).

部分的な日本語解説として、
望月維人, 今田正俊,
固体物理 36, 793-802 (2001年11月号「トピックス」).

M. Mochizuki and M. Imada,
Phys. Rev. Lett. 91, 167203 (2003).

M. Mochizuki and M. Imada,
J. Phys. Soc. Jpn. 73, 1833-1850 (2004).

他多数